しんみりしかけた話




これは、おばあちゃんが大切にしているボタンがいっぱい入ったお菓子の缶です。

今、おばあちゃんがボタンの話をしています。




「これは、ななちゃんが赤ちゃんの時着ていた服のボタン。かわいい赤ちゃんだったねえ・・」

「これは、けんちゃんがやっと歩き出したころ、公園でケガをした時着ていた服のボタン」

「これは、亡くなったおじいさんの服のボタン。やさしい人だったんだよ」



しんみり・・・

「ボタンからいろんなこと思い出せるなんていい話ね。
これは、おばあちゃんの想い出がいっぱいつまった、大切なボタンの缶なのね」




「そうだ、もっとあるんだよ」

おばあちゃんは「とりあえずの間」からボタンが入った缶をたくさん持ってきました。





「これが、隣の山本さんのおじいさんの服のボタン」
「これが、向いの田中さんのご主人の服のボタン」
「これが、裏の佐藤さんの奥さんの服のボタン・・・」



「・・・・・・」


「おばあちゃん!もしかしたら、ご近所の古着を集めて回っているんじゃない?」

「そうだよ。まだまだ使えるボタンばっかりだよ。いい話だろう?」

「ちっともいい話じゃないわ。もう・・みっともないったらありゃしない!」

「いま、しんみりしていたじゃないかい」

「しんみりしたのは、大きな間違いだったわ」


「いまさら、間違いだったなんて言わないでおくれよ」
「間違いよ。気の迷いよ。気のせいよ」


「ハルコさんがしんみりしなければ、このボタン、見せなかったんだよ」
「今見なくても、いずれ見つけていたわよ」


「ハルコさん、しんみりしたふりをして、あたしを騙したね」
「そんな、こそくなまねをするほど、落ちぶれてはいません」


「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」




せっかくしんみりしかけたのに、またまた始まったおばあちゃんとお母さんの口喧嘩。このあとお父さんが止めに入るまで2人のバトルはつづいたのでした。





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